日本は現憲法によって陸海空の軍事力を保持し得る  


入口紀男

「日本国憲法」は昭和二十一年(1946年)11月3日に公布され、昭和二十二年(1947年)5月3日に施行されました。
 日本は、現憲法第九条と第六十六条第 2項によって「陸海空の軍事力」を保持し得ます。これは 1946年9月21日の極東委員会(連合国の最高政策決定機関で、米英仏中ソを含む 戦勝十一か国)の判断です。その陸海空の軍事力(land, sea and air forces)が「自衛隊」です。
 
【第九条】 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
【第六十六条第 2項】 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。

 この現憲法第九条によって、日本は国際紛争を解決する手段でさえなければ、陸海空の軍事力をもつことができます。その理由は、第 1項の「国際紛争を解決する手段としては」の「は」が限定の助詞であるからです。また、第 2項で「前項の目的を達するため」があるので、日本はやはり国際紛争を解決する手段でさえなければ、陸海空の軍事力をもつことができます。
 自衛隊が合憲として現憲法の第九条に書かれていないのは、自衛隊が行政機関であるからです。

 次に、現憲法の成立過程について申し述べます。
「第九条」のたたき台となった、ダグラス・マッカーサーの個人草案(1946年2月3日)には、日本に対して専守防衛権さえも持たせないと書かれていました。
  https://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/072/072_002l.html
 しかし、GHQでは、マッカーサーの個人草案は国際慣行の上で不適切であるとして却下されました。GHQはマッカーサーの独裁ではありませんでしたから。閣僚の中にも現憲法はマッカーサーの押し付けだと言う人がいますが、それは事実誤認です。
  原典:https://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/076a_e/076a_e005l.html
 1946年3月2日に日本国政府が GHQの原案(英文)を参照して現在の「日本国憲法」を起草しました。
  原典:https://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/109/109_004l.html
 その後、日本の帝国議会衆議院が、第九条第 1項に「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と」を入れました。また、第 2項に「前項の目的を達するため」(芦田均修正)を入れました。1946年8月21日修正可決。
  原典:https://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/04/124_1/124_1_004l.html
 そのようにして衆議院を通過した現憲法を見て、1946年9月21日に、極東委員会は「第九条第 1項にいう国際紛争を解決する手段でさえなければ、日本は陸海空の軍事力を保持し得る」(permit maintenance by Japan of land, sea and air forces for purposes other than those specified in the first paragraph of Article IX)」と判断しました。それを指摘したのは中国からの代表団(the Chinese delegation)でした。
  極東委員会記録: https://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/04/126/126_020l.html
 極東委員会はそれを容認したうえで、日本に対してその条件として中国の代表団からの提案によって国務大臣をすべて「civilians」にするように要請しました。これは、歴代の正規軍は皇帝とその官僚に従属するという中国の伝統を反映した提案でした。その結果、日本の帝国議会貴族院で「第六十六条」に「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」が入りました。1946年10月6日修正可決。
  原典:https://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/04/128/128_004l.html

 以上申し述べましたとおり、わが国は国際紛争を解決する手段でさえなければ、現憲法第九条によって「陸海空の軍事力」を保有しかつ行使することができます。自衛隊は、その陸海空の軍事力です。ただし、日本がこの軍事力を行使できるのは、首都にミサイルを落とされたり領土を奪われたりするなど、もう国際紛争とは言えない段階だけです。